都響スペシャル マーラー「大地の歌」

エリアフ・インバル指揮による東京都交響楽団の演奏会に出掛けました。




2017年7月16日 日曜日 14時

1.マーラー 交響詩「葬礼」

2.マーラー 交響曲「大地の歌」


まず、交響詩「葬礼」 第1番よりも先に交響曲として着手したものの放置され、交響曲第1番の後に交響詩として発表された作品(もっとも第1番も最初に表に出た時は「花の章」を持つ5楽章の交響詩だったのだが)
この辺のマーラーがオーケストラの分野で交響曲or交響詩で迷いがあった時期だったのでしょうが、それはまた別の機会に考えてみたいです。

作品自体は交響曲第2番「復活」第1楽章のプロトタイプと言ってもよくて実演では滅多にきけないーその割にディスクは意外とあって、私は若杉弘さんがこのオーケストラと90年代にマーラー・チクルスで第2番の第1楽章をこの「葬礼」ヴァージョンでライヴレコーディングしたものをきいていて、この作品をナマできけると期待していました。

冒頭から空気を切り裂くような殺気と熱を帯びた響きが全体を支配して、キリッと引き締まる所や美しい音色に耳が引き寄せられます。途中ワーグナーの楽劇「ジークフリート」を思わせるフシが出てくるのですが、そこでの輝かしく、安定した響きも印象に残りました。

第1番がベートーヴェンの第9番シンフォニーの影響下にモヤモヤスタートなのに対して、こちらは力強くトレモロの引き裂くようなインパクト抜群のモチーフからスタートします。ここがビシッとキマるかキマらないかでデキが違ってきますが、当然ここできけた演奏は見事であります。その後に出てくる木管による第1主題も含めてスキがありません。
全曲にマーラーのシンフォニーにある泣き、喜び、美しいメロディー、グロテスクな面が約20分の交響詩に入っており、場面ごとの表現の切替が大変であると思いますが、、インバルの速めのタクトの下に音楽が停滞せずにダイナミックに進んでいきます。

この作品は交響詩から交響曲に改作するにあたり、手が加えられたそうですが、私はその詳細を何処がどう、ここがこう、と言える程の自信がありませんが、決して交響曲第2番の第1楽章を抜き出して演奏してみましたというものではなくーこれはきく側にも「どうせ交響曲第2番の第1楽章でしょ」という意識を裏切るものであったと思います。ひとつの独立した楽曲として説得させるものでした。
(まあ、作曲者自身が交響曲第2番の実際の演奏では、第1楽章と第2楽章の間は5分以上空けてから演奏しろ。と記しているのだからハナから別の曲とはいえないけれど第1楽章と第2楽章には断絶があることは認めているのでしょう)

休憩後はメインの
「大地の歌」
私のマーラーの作品中一番好んできいてきた曲で、死ぬまでにナマできいておきたい音楽のひとつであり、今回珍しい「葬礼」と共にきけたのは僥倖と表現したいです。

まず、第1楽章始まりのホルンのいななきに続きテノールが歌い出して感じたのは
「歌手の声小ちゃ!」でした。
今まで歌手とオーケストラの組み合わせの作品をコンサートホールできいた機会が少なかったせいもあるのだろうか?席がステージから遠い3階C席だからなのか?オーケストラの間からテノールの声が僅かにきこえる程度の響きです。
これは歌手の問題ではなく、コンサートホールで100人近いオーケストラVSひとりの歌手という当たり前の限界があったのです。
いかに自分が普段手の加えられた録音物に慣らされていたかを思い返しました。また、この作品はマーラーの死後に初演された=彼は実演をきいていないことも考慮する必要があると思います。
第2楽章で活躍するオーボエ・ソロは野の風情を感じさせる情感がとっても美しかった!個としても、全体としても大変優れているオーケストラであるといえます!

ソプラノの声量にはーもとからオーケストラが抑えているところで歌うので、先のテノールに感じたことは少なかったです。また、しっかりしたリハーサルとインバルとの信頼関係が築かれているのでしょう「調和」を感じる演奏でした。

インバルはここでも速めのテンポで余分な情緒を削り取り、しかしきかせ所はしっかりときかせ、盛り上げていく時は唸り声を出して奏者たちを叱咤激励するが如きで、今は数少ない統率者として君臨できる指揮者が全体を弛緩させずにきかせます。
その集大成が第6楽章「告別」です。「諸行無常」の思想や精神の深みをきかせてくれる、正に立派に構成された「シンフォニー」として納得します。

「大地の歌」はシンフォニーではなく「歌曲集」であるという意見がありますが、この演奏をきけばマーラーの精神、ユダヤ教や東洋的な考え方の詰まった「特異な形をした」シンフォニーであることを感じるでしょう。

〔プログラムに書かれた対訳を読んでいてすっと頭に入ってきて、言葉が巧みで素的な訳であるなぁ!と最後まで読んでいって、訳者を見たら船木篤也さんだった。なるほど=やっぱりなぁと思った。
NHK-FMやTVでドイツ音楽を中心に良心的な解説をしておられる方であります。〕

◯今回も素晴らしい音楽をきかせてくれたインバルと都響のメンバー
   そして子供の少年野球で忙しい中で行かせてくれた妻に感謝です。



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