今週の1曲(2)~メンデルスゾーン:交響曲第1番

・芸術家にとって「経済的に恵まれた生活環境」というのは創作活動へ多大な影響を与えるのでしょうか?

・ハングリー精神があった方が豊かな創造力や霊感の源になって芸術作品を後世に残すことが出来るのでしょうか?

と冒頭から書いたのは本日ご紹介する作曲家、フェリックス・メンデルスゾーン=バルトルディ(1809~1847)の作品をきく上で大いに関連する事じゃないかと思うのです。
伝記などを読むとバッハもモーツァルトもベートーヴェン、シューベルトも現在大作曲家と言われている人はいつも懐が寒い生活をしていたそうです。でも中には大金を手にしたヘンデル、ハイドン。そして生まれながらにしてお金持ちだったメンデルスゾーン!(ユダヤ人大富豪の家庭に生まれた彼は年少より勉強はもちろん、絵画・音楽など様々な英才教育を受けたとのこと)

でも、現在の音楽ファン、評論家の中での評価を見ると金持ち作曲家よりもビンボー作曲家の方が人気があるように思われます。それはなぜか?やっぱり「ハングリー精神」こそが創造源になっているからではないでしょうか?常に挑戦しようとするベートーヴェンのモットー「苦悩を通じて歓喜へ」の訴求力に比べて、そんなことを考えなくても生活が満たされてるメンデルスゾーンの作品はどれも美しく、耳あたりが良い、ベートーヴェンのように怒り、恐れ、苦しむといったものは全く感じられず、いわば「金持ちケンカせず」みたいな音楽になっていると思います。

その「チョー恵まれ人間」メンデルスゾーンが15歳の1824年に書いた交響曲第1番ハ短調作品11をご紹介します。彼のシンフォニーと言えば第4番「イタリア」、あと第3番「スコットランド」と第5番「宗教改革」あたりが演奏される機会も多いですが、第2番「賛歌」が声楽を含むカンタータ風の特殊な作品であることを除くと5曲あるシンフォニー中ほとんど耳にする機会が無いと思われます。

メンデルスゾーンは15歳で第1番を書く前に12曲の「弦楽によるシンフォニー」を作曲しており、この第1番には当初その第13番という番号が付けられていました。しかし、出版社がそれまで書かれていた12曲の「弦楽によるシンフォニー」は習作扱いとして発行しないでフルオーケストラで書かれたこの曲から「第1番」という番号が与えました。確かにそれまでの12曲がハイドン、モーツァルトの頃のセレナードやディヴェルテメントといったジャンルから発展させたようなものに対して、第1番はハ短調という調性からも分かるようにベートヴェンの第5番のそれを意識して書いたと思われます。

古典的なシンフォニーの伝統に則り、4つの急・緩・急・急の楽章からなっています。

第1楽章アレグロ・モルト  若さの爆発といってもいいような燃え上がる熱気を持っているのですが何だか苛立ったみたいきこえます。弾むようなリズムが出てくると劇音楽「夏の夜の夢」が思い浮かびます。
第2楽章アンダンテ  オペラ・アリアのように弦に伴われて管楽器が美しいメロディーを歌います。これは彼が数多く作曲したピアノ曲「無言歌」の世界を伝え、その豊かな楽想は成熟した腕前を既に習得していたことを知ります。
第3楽章メヌエット、アレグロ・モルト  ベートーヴェンがそうであったようにメヌエットといえどもスケルツォのように躍動的です。トリオは幻想風で15歳にしては精神的安定があります。
第4楽章アレグロ・コン・フォーコ  何かきいていて追われているような心理的な不安感を抱えたような音楽で半ば強引にコーダに持ち込んでいくのが私には意味深にきこえます。

この曲にはモーツァルトが17歳の時に作曲した第25番ト短調K.183にも通じる思春期特有と言っていいの判りませんが音楽全体に不安や苛立ちみたいな、情緒が一定ではない感じを受けます。それがその時期にしか書けない魅力でもあって2人とも若くして亡くなった「円熟」という言葉が似合わない溢れる情熱と創造力をきく事が出来ます。
しかし、私はこのシンフォニーをきく度に豊かな生活環境、芸術的才能に恵まれたメンデルスゾーン。でもその15歳の少年の胸の内は満たされない気持ちで冷たい風がヒューヒューと吹いていたのでは?と思うのです。

《Disc》 
交響曲全集くらいにしか収録されていないので数は多くないですが、イチオシは1958年ドイツ生まれのトーマス・ヘンゲルブロックが2011年から首席指揮者を務める北ドイツ放送(NDR)交響楽団のコンビによるものです。
ヘンゲルブロックはアーノンクールの手兵コンツェントゥス・ムジクス・ウィーンのヴァイオリン奏者を務めていたそうで、そこから想像される通り古楽系の演奏方法をオーケストラと実践しています。
スピーディーな音楽運びで驚くようなフレージング。もうひとつ丁寧に音を奏してほしいと思う方もいるかも知れませんけれども、優雅なメンデルスゾーンというイメージが荒削りで野性的な姿に変身しています。そして、なんといっても北ドイツ放送のオーケストラ。晩年のギュンター・ヴァントに鍛えられた響きがまだ残っているのも嬉しいです。ぜひ実演をきいてみたいコンビです。
また、第3楽章と入れ替えて演奏されたことがあると伝えられる弦楽八重奏曲のスケルツォ楽章(作曲者自身がオーケストラ用に編曲)が収録されているのも気が利いています。

これがこのコンビ第1弾のディスクだったと思うのですが、それにこの曲を持ってくる心意気というか意気込みも知りたいものです。




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