今週の1曲(10)~ブラームス:大学祝典序曲

新年度がスタートして新しい生活が始まるのにふさわしい(そうじゃない人ももちろん)音楽をご紹介したいと思います。

ブラームス 大学祝典序曲 作品80

ブラームスの作品をきくとほとんどがシブイ曲ばかりで生涯この人、笑ったことないんじゃないか?と思ってしまいますが、この作品は作曲者本人いわく「笑いの序曲」とのことで確かに彼には珍しく異常に喜びに満ち溢れている音楽です。

曲が書かれたのは1880年、前年の1879年にドイツ、ブレスラウ大学の名誉博士に選ばれたことへの返礼として作曲されました。しかし、その2年前の1877年にもイギリス、ケンブリッジ大学からも音楽博士にと申し出があったのですが授与式のために船旅をするのを嫌がってボツになっていたということでブラームスらしい面白いエピソードです。

曲の内容は4つのドイツの学生愛唱歌を基に自作のテーマを織りこまれた陽気でバンカラ(表現が古すぎ!)な学生たち―北杜 夫さんの「どくとるマンボウ青春記」を連想し―目に浮かぶような音楽に思います。

開始はハ短調で―入学式で初めて門を入っていく様な不安な感じみたいなところから美しさを加えて、45小節から歓喜がやってくるという、それからの展開への期待を高めてくれます。また、この曲を初めてきく方でも157小節から^ファゴットで呈示される「新入生の歌」のメロディーはテレビとかラジオなどで使用されることもあるので(放送大学などのアカデミックな雰囲気を演出したい時のBGMに使用されます)

私はこの曲をきいているとマジメな人が羽目を外した時に変な面白さがあるのと同じ―ただし、周りの人間は反応に困りうつむいてしまう感じによく似ています。そんなことに我に返ったのかブラームス。同時期に双子のように「悲劇的序曲」作品81という曲を書いて、バランスをとっています。(ごまかして?)います。こちらは「大学祝典序曲」を「笑いの序曲」と呼んだのに対して「泣く序曲」と呼んだそうです。

《Disc》
演奏時間が10分程度なのでブラームスの交響曲のおまけのように入っていますが(演奏もそういったことが伝わってくるものがあります)
不思議なことに全交響曲をレパートリーにしていても「悲劇的序曲」は演奏するのに「大学祝典序曲」は取り上げない(ただ録音自体が残っていないという場合もあるかも知れませんが)指揮者がいます。フルトヴェングラー、ベーム、カラヤン、ザンデルリンク、ジュリーニ・・・逆に録音を残しているのはトスカニーニ、ワルター、クレンペラー、セル、バーンスタイン、アバド・・・
他にもいるかも知れませんが思いつく人はこのくらいです。なぜ取り上げないのか?―あまりの陽気な音楽にどう取り組んでいいか解らなかったのか?この作品に芸術的価値は無いと判断したのか?疑問です。

ニコラウス・アーノンクールがベルリン・フィルを指揮したものは(1996年ライヴ・レコーディング)冒頭の不安&新生活へのドキドキみたいな感じや、64小節からのコラール風に響かせる金管がブラームスが古い時代の音楽を勉強していたことを認識させ、登場する学生歌それぞれのメロディーが「歌詞が付いた歌」(当たり前ですが)であったことを意識させます。最後の379小節クライマックスでの表現の荘厳なこと!スコアを見ると確かにマエストーソとなっています。
新発見が多い演奏で、交響曲の余白埋め扱いから脱している演奏です。

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