2013年印象に残ったディスク

今日は年の瀬ですのでブログで取り上げられなかったディスクを整理して心に残っているものを何点か取り上げたいと思います。

◎まずはカール・シューリヒトの復刻ディスクから

彼の演奏は昔、世評高いブルックナーの交響曲第8番と第9番をウィーン・フイルを指揮したものをきいたとき、まるでスルメいかをお湯に入れてふやかしたものを噛んでいるみたいな(そんなことはしたことありませんが・・・)なんともキリっとしない演奏に「なーんだ、シューリヒトって指揮者なんてたいして面白くないな」と当時スクロヴァチェフスキがザールブリュッケンの放送オーケストラと進めていたシリーズの演奏に強く惹かれて私はその違いだけで「古い」=「面白くない」と勝手に決めつけてシューリヒトの演奏をきくことは全くありませんでした。



今回ブラームスの交響曲第3番と第4番やシューマンの交響曲第3番「ライン」などをきいてみて今までの意見が変わりました。彼の演奏で驚くのはそのスピード。そのテンポであっても、精緻なアンサンブル―オーケストラ技術に多少難はありますが(でも、いまのドイツのオーケストラからはきけない素朴な木管の音や自然なホルンの音などの魅力があります)そして主題やフレーズの絶妙な歌わせ方!素晴らしい演奏です。

同世代にフルトヴェングラーという巨大な指揮者がいたため目立たないことと、本人自身が華々しい舞台に立つことを好まなかったためか、巨匠扱いされないですが、偉大な指揮者であったことを知ることが出来ました。


◎次はミヒャエル・ギーレンがベルリン・フィルハーモニー管弦楽団を客演した際にライヴ収録されたマーラーの交響曲第7番「夜の歌」―本来はクラウス・テンシュテットが客演する予定だったものがキャンセルとなった公演とのことです(テンシュテットの演奏も実現していたらどんなものだったのだろう!?)



まずきいて驚くのは第1楽章冒頭からスコアでは書かれているものの大概の演奏では他のフレーズやメロディーの陰に回ったりしていたものが混ざり合わずにきこえてくることです。

第2楽章と第4楽章では「ナハト・ムジーク」での夜の描写(大編成オーケストラで精緻な表現)や終楽章ではオーケストラの色彩を最大限に生かした輝かしいサウンド―これは同世代で親交もあったR.シュトラウスからの影響も―あまり人はいいませんがあるように思います。そういったことをギーレンの演奏では感じさせます。現代音楽を手掛ける彼だけあってライヴでも冷静に整然と処理されています。
「スコアが見えるような」と言われる演奏の代表選手ブーレーズ盤と双璧のディスクと思いました。

◎今年生誕200年のワーグナーからは珍品と言えるピアノ独奏曲集です。

1980年生まれのイタリア人ピアニスト、ピエル・パオロ・ヴィンチェンツィがディスク2枚に渡り16曲ほど弾いています。

メインとなるのは作品1と4のピアノソナタですが小品にもなかなかいいものもあります。
気になったのは「メッテルニヒ公爵夫人のアルバムに」「マティルデ・ヴェーゼンドンクへの手紙の楽譜」等々、女性との思い出に関係するサロン風の小品をたくさん残していることです。彼は別れた彼女の写真を未練がましく持っている男と同じ心境だったのかな?と思いました。

私は1831年の作品「幻想曲」作品3が面白いと思いました。ショパン風の開始からだんだんとドラマティックになっていき、中間部では夢見心地な音楽が続きます。この演奏では約28分ほどでしたが全曲が万華鏡みたいです。

「傲岸不遜」「自意識過剰」ということでは尊敬する先輩ベートーヴェンをも凌ぐ彼が、若い時はその尊敬する先人が完成・発展させたソナタ形式(主題労作)の作品を試行錯誤して書いている姿が見えてくるようで、後年に劇音楽であれだけ多弁になった彼が委縮して書いています。
結局彼はベートーヴェンにその分野では敵わないことを知って、言葉と音楽で語るオペラ・楽劇を目指して正解だったとことがわかる興味深いディスクです。


◎最後にご紹介するのはシューベルトの歌曲集「冬の旅」



これはディートリヒ・フィッシャー=ディースカウがマウリッオ・ポリーニと1978年のザルツブルク音楽祭で共演したライヴのディスクです。この二人の共演は、その後実現しなかったらしいので唯一の演奏らしいです。バレンボイム、リヒテル、ブレンデル、ペライアなどの名手とこの歌曲集を録音していったフィッシャー=ディースカウですが、ポリーニと正規録音を残さなかったのは演奏家の同士の問題か、レコード会社の問題か謎です。

ライヴという空間が両者をナーバスにさせていて、いい緊張からか、劇的な表現はまさに「絶対零度の世界」。印象に残った部分を何か所か挙げていくと第1曲「おやすみ」ピアノの弱音がクリアなこと! 第5曲「菩提樹」第2小節休符2つの絶妙な間合い(第27小節でも同様です)そして「AmBruner」と歌いだす詩の美しさ! 第11曲「春の夢」でははかない夢を断ち切るピアノのff 第20曲「道しるべ」第7小節辺りの静けさ―死の淵を覗き込んだような瞬間です。
そして最後の第24曲「辻音楽師」決して溶けない、見渡す限り雪景色とひなびた郊外の集落の風景。静粛の中から音楽を創り上げるシューベルトの才能がここに結晶となって表現されています。

拍手が入っていますがきき手が音の余韻を感じてから、次第に大きな拍手になっていくのがいいです。みんな音楽に心を奪われたのだろうと思いました。

今回は2013年にきいたディスクから印象に残ったものを何点かご紹介しました。




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