都響スペシャル エリアフ・インバル指揮 マーラー交響曲第10番(クック補完版)

都響スペシャル

エリアフ・インバル指揮による
マーラーの交響曲第10番嬰へ長調(クック版)の演奏会をきくため地方より上京してきました。
(於:2014年 7月20日(日曜日) 14:00~ サントリーホール)




マーラーの交響曲第10番は一昔前までの「マーラー指揮者」といわれたバーンスタイン、テンシュテット、そしてアバド、マゼールといった人たちはマーラーの総譜が何とか完成している第1楽章のアダージョのみを演奏するのが一般的であったのに対して、現代の指揮者たちはイギリスの音楽研究家デリック・クック(1919~1976)が補筆完成させた、いわゆる「クック版」といわれる全5楽章のものを演奏するのがメジャーになりつつあるというか、きき手もキワモノをきくみたいな感覚を持つことなく接するようになりました。

それにはこのヴァージョンの普及に貢献したと思われるサイモン・ラトルを筆頭にリッカルド・シャイーそしてインバルなどによる演奏・ディスクの影響が大きいと思います(他にも違う版で演奏している指揮者まで含めるとこのシンフォニーをめぐる現況は百花繚乱といったところで、きき手が望めば色々な楽しみ方をできます)
そのラトルやシャイーが一貫してクック版しか取り上げないのに対してインバルは当初1980年代の後半にフランクフルト放送交響楽団とマーラー交響曲全集を手掛けた時は第1楽章アダージョのみでしたが、クック版に価値を見出したそうで全集補完のようにして1992年にレコーディングをしました。

今回も基本的にそのヴァージョンで演奏しているようでした。しかし、「クック版」といってもこれまた一筋縄ではいかず、何回かクックが亡くなるまで手を入れていて、また彼の死後も周りの人たちも手を加えているのでクック版にも異稿があるのです。そして演奏する指揮者も自分オリジナルで修正したりしているので専門家でないと「どこがどう違う」ということまで判りません。
私のような素人でクック版を他人の手掛けた「マガイ物」という見方をしていて熱心にきいてこなかった人間には版がどうのこうのという力は持っていないので演奏会で鳴っていた音楽についてのみの感想です。

第1楽章、始めヴィオラのみで呈示される序奏テーマでの緊張感ある音、これにより一気に曲への集中力が高まります。続くヴァイオリンの第1主題の美しさ!激しく心を揺さぶられ音楽に引き込まれていきます。
後半できかれる不協和音―これは終楽章でも響くすごい音―丸ごと音がブロックになって胸にどっしりとしたものを投げ込まれたような重厚感―それと一転して静かで浄化されたメロディーの出現がまるで絶望とか破滅といったものを表現しているみたいで、この最強音と弱音のコントラストの
手法が他のマーラー作品では思い浮かばないので、新しくてとても惹きつけられました。

そしてこの交響曲はその間に動きのある3つの楽章―第2楽章スケルツォ―第3楽章プルガ・トリオ―第4楽章スケルツォ、アレグロ・ペザンテがありますが、どれも熱気があり、マーラー流のアイロニーやドロドロした所を的確で立体的にきこえてきました。ホルンをはじめとする金管群、フルート、オーボエなどの木管群、ティンパニを筆頭に活躍する打楽器群も輝かしいものでした(第4楽章~第5楽章で注目される大太鼓奏者は女性でしたがもの凄い打撃音を鳴らしてくれて、何か筋トレしているのでは?ダンナさんか彼氏とケンカしてあのバチで叩かれた完全にノックアウト・・・なんていらないことまで考えてしまいました―ゴメンナサイ。。。)

先のフランクフルト放送交響楽団とのディスクと都響の演奏と比較すると(セッション録音とナマとの大きな違いはありますが)弦楽器のちょっとネバっこいところや管楽器のフレーズなどでもきかれる―ユダヤの宗教的なものなのか、彼自身が本来持っていたものかわからないのですが―マーラーらしい歌いまわしがきこえてきてインバルの許で緻密な演奏技法(このあたりは重箱の隅をつつくと感じる方もいるかも知れません)をマスターしていると思いました―いうまでまありませんが、都響にとってレパートリーを考える時、マーラーは最重要なものでしょうから―パンフレットによると第10番(クック版)は既に1976年にシベリウスの大家といわれた渡辺暁雄さん―1987年に若杉弘さん―1997年にはインバルと取り上げてきたそうですのでその自負もあると思います。それは、終演後の舞台上の楽団員の方たちにある様々な意味で難曲といえるこのシンフォニーをやりとげた達成感と心地よい疲労感が漂うものが印象的でした。

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