今週の1曲(34)~ストラヴィンスキー:バレエ「プルチネルラ」組曲

バレエ「火の鳥」(1910)、「ペトルーシュカ」(1911)、「春の祭典」(1913)で頂点を迎えた前衛的で野心作を次々と発表していってトンガッテいたストラヴィンスキーが第1次世界大戦以降、突如180度回れ右をしてシンプルで明快な古典主義時代といわれる作風に入った第1作がこのバレエ「プルチネルラ」です。

音楽自体の元はストラヴィンスキーのオリジナルというわけではなくて、イタリア・バロック時代の作曲家ペルゴレージの曲に基づき―他にも今では名前も忘れられて演奏されることもないバロック時代の作曲家の作品からもアイデアを借用されているそうです。しかし、どの曲が誰の作品かなどと気にしないでも十分楽しめます。私ももちろん知りません。

俗に三大バレエと呼ばれる先の3曲「火の鳥」・「ペトルーシュカ」・「春の祭典」も名曲ですが、私個人としてはストラヴィンスキーの曲をきくとなったらこの「プルチネルラ」や「ミューズの神を率いるアポロ」・「妖精の口づけ」といった新古典主義の頃の作品を取り出すことが多いです。

「プルチネルラ」は例の「春の祭典」などと同じくディアギレフから依頼されたのですが、最初は乗り気ではなかったのですが、ペルゴレージなどの作品に触れることにより新しい芸術の作風を模索していた両者の利害が次第に一致していき生まれたものです。

全8曲からなるこの組曲は前奏曲から快いリズムと晴々とした、気分浮き立つ音楽が始まります。
躍動的なリズムとイタリア・バロックの太陽の光を浴びたような明るさ、どことなく影もあったり、午後の昼下がりから夕暮れの画が思い浮かぶような陰影のある旋律もあり、難しいことをゴチャゴチャ考えずにきける作品です。
しかし、そこはストラヴインスキー!あちらこちらに新しい響きや不協和音がきこえてきてききてを飽きさせません!
どのような振り付けだったのか気になるくらい速くて踊れそうもない第4曲のタランテラ。
第7曲ヴィーヴォではトロンボーン&コントラバスによる珍しい二重奏は少し不気味でブラック・ユーモアのようにもきこえます。
第8曲フィナーレの鳥が羽を広げ大空に舞いあがっていく様な盛り上がりも素晴らしいです。
どの曲も短くて、簡潔なので俳諧の世界観にも通じるようです。

【Disc】
古楽器演奏のスペシャリストから活動の幅を広げていった2003年にクリストファー・ホグウッドがバーゼル室内管弦楽団を指揮したものは彼の多才ぶりが発揮された演奏です。
バーゼルで活動した教育者・指揮者でパウル・ザッハーという人がいて、バルトークなど多くの作曲家に新作を委嘱して自ら手掛けて20世紀音楽の発展に寄与しました。
ホグウッドはそのバーゼルの地で活動するにあたり、ザッハーの衣鉢を継ぐという意識であったのかこの「プルチネルラ」だけでなく、ザッハーの委嘱により誕生した曲など新古典主義の作品をシリーズ化して録音していったうちの一枚です。
演奏は小編成という利点から澄んだ音色とフットワークの良さで原曲がイタリア・バロック音楽であるということを改めて認識させてくれます―それは当然ホグウッドの意図もあるわけですが、各楽器の掛け合いやソロ奏者の技量もあり、みずみずしく弾ける様にして音楽が快く耳に入ってきます。
ストラヴィンスキーといえばもっぱら三大バレエが取り上げられますが、たまにはこういった曲をきくのも耳の清新にいいでしょう!

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