モーツァルト:交響曲全集完聴記(その8)

ホグウッド/シュレーダー&アカデミー・オブ・エンシェントミュージックのモーツァルトの交響曲全集の完聴シリーズの第8回めです。

CD6

交響曲 第20番 ニ長調 K.133

第1楽章から颯爽として表現豊かな音楽です。朝の目覚めの清々しさ―「いっちょ今日もやってやるぞ!」という気分にさせてくれて、生命力・自身がわいてきます。
第2楽章、弦楽器にフルートのオブリガートという特徴的なもので、とても印象的な柔らかな肌触りの音楽になっています。
第3楽章は定石通りのメヌエットになっているのですが、きき所はトリオのひなびた音楽で、田舎の楽師たちが村の一隅で演奏しているようなユーモア感が伝わってきます。手回しオルガン=ハーディ・ガーディを模したようなメロディーもきこえてきます。
終楽章はしっかりと書き込まれ堂々とした存在感があります。初期のシンフォニーをきいていた時として感じた「やっとここまで書き上げた」という仕事としての音楽ではなくて、心から湧き出て来たように感じられる楽想が心地よいです。
弦楽器の陰で様々なフレーズを管楽器に与えているところは後のシンフォニーを思わせます。
★★★★


交響曲 第21番 イ長調 K.134

楽器編成がオーボエでなく、フルートが入っているせいか柔らかな耳触りで膨らんでいく様な感じでとてもポエジーな音楽です。第2楽章はアンダンテでありながら弦楽器が細かく躍動的な動きをきかせる低~中声部に対して、オペラティックなメロディーを奏するヴァイオリンとフルートという対象が面白いです―短いですが展開部もドラマティックです。
明朗なメヌエット、ただしここでもきき所はトリオの部分で、ききての耳を引き付ける仕掛けを行ってくれます。
終楽章は推進力があり、ユーモラスで喜びに溢れて、また劇的な所も持っている多様さがある音楽です。
★★★☆


シンフォニア ニ長調 「ルチオ・シルラ」K.135 序曲

ここでも1772年12月、ミラノで初演されたオペラの序曲をシンフォニーとして演奏しています。
急―緩―急の典型的な当時のイタリア序曲のスタイルで、堂々とした第1楽章、穏やかな第2楽章、燃え上がる炎のような終楽章といった構成で劇への期待感を膨らませるものです。
★★☆


シンフォニア ニ長調 K.161/K.163/K.141a 
        「スキピオの夢」序曲

1771年にザルツブルクで初演された劇的セレナータ(実質的にはほとんどオペラと変わらない作品で音楽劇と呼ばれることもあります)の序曲をシンフォニーとして演奏しています。
この音楽劇は、例のヒエロニムス・コロレド大司教の就任式のために書かれたとされてきましたが研究が進み、前任の大司教であったジギスムント・シュラッテンバッハの記念式典に合せて書いていたものの当のシュラッテンバッハ氏が亡くなってしまったので急遽、作品中で讃える君主の名前を変更して上演したとのことです(倹約家にして芸術にはあまり興味のなかったコロレドのことだから上演もされなかったのでは?という説もあります)
その変えた名前がこういった事実を解き明かしたそうで「ジローラモ(ヒエロニムス)」の下に「ジギスムント」と書かれていると赤外線撮影で分かったそうです。ダヴィンチやフェルメールの絵画にしろ過去の芸術作品にかかわる謎が次々と解き明かされていくのは興味深い事実ですね。
と、話が横道にずれてしましました。
劇を盛り上げていく様なアレグロ・モデラートに始まり、第2楽章のパストラーレ風のアンダンテ。そしてシンフォニーとして演奏するために書かれたK.163のプレストによる終楽章は一気呵成の勢いで駆け抜けていくあっという間の音楽。
★★☆

【演奏メモ】
第20番の第2楽章におけるフルートと弦楽器のとても美しい旋律はオリジナル楽器できいてこそ良さが分かるのでは?と思うほどしなやか音色です。
第21番のここでも第2楽章の弦楽器の動きはヴィヴラートの少ない奏法がより個性的な曲にきこえてきます。

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