ショスタコーヴィチ:交響曲全曲完聴記(その3)

ショスタコーヴィッチの交響曲をバルシャイ指揮ケルン放送交響楽団による演奏で順番にきいていくシリーズの第3回。



「革命」の副題でも呼ばれることがある交響曲第5番ニ短調作品47からきいていきます。

彼の作品中でも代表作=傑作という扱いを受けている交響曲ではありますが、今回こうやって第1番から順にきくと同時にショスタコーヴィッチの生涯についても調べていると傑作化ということに関しては個人としては「保留」という意見になりました。

この作品が発表された時期というものを考えてみると、ショスタコーヴィッチの地位は極めて危うい時のもので、発表する作品、作品がソ連当局により「非社会主義的」と断罪されていました。
ちょうどスターリンによる大粛清時代とも重なり、前衛的な交響曲第4番も初演直前に取り下げるという経緯もありました。
この時代のソ連において当局に睨まれるということは=社会的失脚を意味して、「死刑」もしくはシベリアかどこかに連れ去られてしまうという極めて危険な状況下であったということです。

そういったことでは「生きていくために書かれたシンフォニー」と言ってもいいかもしれません。ですから第1番から第4番からきいてきた耳にはちょっと腰が引けているように思えます。
彼独特のリズムや打楽器攻勢、金管楽器の咆哮、アイロニーに満ちたフレーズが控えめで、バランス重視の構造、分かり易いクライマックス設定にきこえます。それが当時のソ連当局をダマシて現代の我々の耳もだましているのでしょう。

第1楽章の冒頭は言うまでもなく第5番=ニ短調、そう!ベートーヴェンのそれ「運命交響曲」を明らかに意識してテーマをつくっていると気付く、かなりケレン味がある弦楽器によるカノンです。
第2楽章間奏曲風なスケルツォ。マーラーっぽい香りがする始まりから次第にリズムや管楽器にショスタコーヴィッチらしいひょうげたフレーズが登場―しかし暗い影が常に付きまとっています。
第3楽章このラルゴにこそショスタコーヴィッチの交響曲第5番の存在価値があるといっていいのではないでしょうか?そのくらい美しくて沈痛な響きに満ちています。
とめどなく流れる涙のようです。それをグッと怒りなのか痛みなのか、それともその両方なのか?をこらえているみたいです。
金管はすべてお休みで弦楽器―それも弦楽五部をさらに何群にも分けています。ここはやっぱりマーラーの交響曲第5番の第4楽章アダージェットを念頭においていたのかな?と思います。
第4楽章、先のラルゴがこのシンフォニーの存在価値を高めているとしたらこの終楽章はその逆。
何という過剰な演出でしょうか!!大袈裟にしつこいくらいに繰り返されるリズムやモチーフが白々しさを増幅させます。。。その中からもきき取れるのは「生きるためには作曲はする。ただし迎合は決してしない」という密かなメッセージをギリギリの状況下で発しているのだとは感じますが・・・。

*問題とされる終楽章のテンポですがバルシャイは普通のテンポ設定で始めてしだいにアップさせていきます―これは一般的になっている「強制された喜び」に準じた解釈であると思います。
後半部ではやや金管がヘタリ気味なのが残念です。

次は交響曲第6番ロ短調作品54です。
第1楽章のヴィオラ&チェロによる出だしがシブくて深い音楽になっていて第5番に続いてきくと「俺もあんなシンフォニー書いてしまって赤っ恥だなぁ~」といって悔やんでいるようにきこえます。
金管の切々な叫び、弦楽器の激しい心の動きが耳をとらえます。
第6番シンフォニーでロ短調、音楽の性格が抒情的なのは自国の先人大作曲家チャイコフスキーの「悲愴」を絶対にというか、ソ連の作曲家としたら無視できなかった結果といえるでしょう。そして第1楽章途中で鳴らされる鐘というかドラみたいな響きにも―
全体が第5番のラルゴにも通じ、それがより深まった濃い音楽で、第1楽章を緩徐楽章でまとめあげていることはショスタコーヴィッチがより円熟へと向かっている手本といえるでしょう。
第2楽章は前楽章から一転、諧謔的な動きのあるアレグロ、急にこんなに喜びだすなんて躁鬱患者みたい。
次の第3楽章が終楽章でプレスト。第2楽章からさらに動きが加わりスピード・アップ。第9番シンフォニーの先駆けといえる軽快なフットワークを持っています。第5番シンフォニーの終楽章を自らここで茶化してしまったようにもきこえてきます。後半に至ってショスタコーヴィッチがかなり悪ノリしすぎでは?という位のハチャメチャな騒ぎ方―ストラヴィンスキーの「サーカス・ポルカ」とかサティの「パレード」を思い出してしまいました。

3楽章形式ではありますが交響曲に近い完成度です。
交響的幻想曲とでも名付けたいような作品。この第6番に出会えたことは一番の発見です!!

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