ショスタコーヴィチ 交響曲全曲完聴記(その10)

ショスタコーヴィチの交響曲全曲をきいていく企画もいよいよ残り2曲、演奏はルドルフ・バルシャイ指揮のWDR(ケルン)交響楽団です。
ソリストはソプラノがアラ・シモーニ、バスがヴラディーミル・ヴァネエフ、コーラスがモスクワ合唱アカデミーとケルン放送合唱団です。


第14番 ト短調 作品135 「死者の歌」

1969年に作曲、初演されたこの交響曲、初演者はバルシャイ指揮のモスクワ室内管弦楽団でした。また、この曲には不思議なエピソードがあって、リハーサルに臨席していた共産党幹部のアポストロフが心臓発作で倒れて病院に搬送されたもの、一月後に死んでしまった。アポストロフはジダーノフ批判の時、さかんにショスタコーヴィチを批判した人だったらしく、祟られたのでは?と噂されたらしいです。

曲は2人の独唱者とコーラス、オーケストラは弦楽器と打楽器のみで、管楽器を含まないという特殊な編成で、楽章数も11もありながら演奏時間は約50分のオーケストラ伴奏付き歌曲集といった顔つきをした交響曲です。
歌詞は前作と異なりちゃんとした⁉︎ロシア、フランスやドイツなどの詩人のテキストに付曲しています。

第1楽章 「深いところから」  テキスト  ガルシア・ロルカ(スペイン)
冒頭から寂寥感があり冷え冷えとした感覚が素晴らしい。その不安定で血の通わない空気感がまるでこの交響曲の序奏・導入部になっているかのようです。
第2楽章 「マラゲーニャ」 テキスト  ロルカ
バルトークにも似た乾いたアレグレットのリズム。スペイン人のロルカの詩に付曲していることもあってかカスタネットが鳴り響く。しかし、それはラテンの陽気さではなくて死の舞踏であることが印象付けられます。
第3楽章 「ローレライ」  テキスト  ギョーム・アポリネール(フランス)
あの流れるような民謡ローレライではなくて死臭の漂う二重唱。
第4楽章  「自殺」   テキスト  アポリネール
独奏チェロ、シロフォン、チェレスタの音色が恐ろしさと同時に美しさを感じる音楽で、作品の中でも印象に残る楽章です。
第5楽章 「心して」  テキスト  アポリネール
前楽章からアタッカで始まりますが、ズドンコズドンコとというリズムが特徴的です。マーラーを思わせるこっけいでありながら悲しさもある行進曲で、出征し戦死した弟を想う姉の歌でまさに「子供の不思議な角笛」の1曲「少年鼓手」を、歌詞は与謝野晶子の「君死にたもうことなかれ」を連想する戦争への無常感とやるせない愛があります。
第6楽章  「マダム、御覧なさい(心してII)」  テキスト  アポリネール
「ローレライ」と同様に対話形式になっていて、男声の語りかけに女声(マダム)が答えるのでありますが、虚ろな感じか自嘲的でなんとも不気味ですが、あっという間に終わってしまいます。
第7楽章   「ラ・サンテの監獄にて」  テキスト  アポリネール
作詞者自身の投獄経験を基に書かれたという詩に付けらた音楽ということもあり、ピチカートとコル・レーニョ奏法の少ない音で死を想像させる響きを描き出します。
第8楽章   「コンスタンチノープルのサルタンへのザポロージェ・コザックの返事」
テキスト  アポリネール
グロテスクともきこえる激しい響きに満ちています。終わり近くでヴァイオリンが10パートにも別れて現代音楽風トーンクラスター状態の音にショスタコーヴィチがこの種の音楽をどのように料理したかききとれます。
第9楽章   「おお、デールヴィク、デールヴィク」
テキスト  ウィルヘルム・キュッヘルベケル(ロシア)
弦楽合奏の渋みのある伴奏、間奏がとても美しくて素晴らしい!マーラーの「大地の歌」とかR.シュトラウスの「メタモルフォーゼン」のようです。
第10楽章   「詩人の死」  テキスト  ライナー・マリア・リルケ(ドイツ)
ここでご無沙汰のソプラノが登場、シモーニという歌手、いくぶん幼い感じで歌うせいか可憐なイメージを受けるところがイイ。そしてダイナミックな迫力を持っています。
「詩人の死」という題名のとおりシューマンの時代には恋していた詩人も死を迎えてしまったらしく、寂しい心持ちになる楽章です。
第11楽章   「結び」  テキスト  リルケ
二重唱で高らかに死を賛美するようにして歌われていきますが、そこはかとなく死に対する不安みたいなものも感じさせつつパッと煙が空に昇って消えるようにして曲を閉じます。

第11番、第12番で革命賛歌を書き、第13番ではカンタータ風の交響曲を発表してきて、ショスタコーヴィチがついにたどり着いた「死」というテーマ。シンフォニーに限らず彼の今までの作品でも表現しようとしていたものが、はっきりと姿を見せた様に感じられます。
編成も作風もグッと凝縮されていて、よくきくと金管楽器が無いため響きも独特なもので、調性もはっきりさせていません。
初演者バルシャイによる演奏者もきき手も集中させる1曲。



コメント

このブログの人気の投稿

今週の1曲(18)~R.シュトラウス:管楽器のための交響曲「楽しい仕事場」

ブログの引越し

ありがとう保田紀子オルガンコンサートの開催