モーツァルト:交響曲全集完聴記(その3)

今週はモーツァルトの交響曲全曲の完聴記―演奏ホグウッド&アカデミー・オブ・エンシェント・ミュージックによる―その3回目です。

CD3

・交響曲 ハ長調 K.35 「第一戒律の責務」序曲(シンフォニア)

モーツァルト11歳の時に書かれた宗教的ジングシュピール(ドイツ語による宗教劇)の序曲をシンフォニーとして数えて演奏しています。
強弱の対比が繰り返されます。弦のユニゾンではドラマティックな表現をきかせるのが興味深いです。なお、この劇本編は3部に分かれていて第1部がモーツァルト、第2部がヨーゼフ・ハイドンの弟、ミヒャエル・ハイドン、第3部がザルツブルク大聖堂のオルガニストで作曲家のアントン・カエタン・アドルガッサーによる共作になっているそうですが、私はまだその全曲をきいた事がありません。
★★★


・交響曲 ニ長調 K.38 
 オペラ「アポロとヒアキントゥス」序曲(シンフォニア)

1767年に作曲されてその年の5月に初演されたモーツァルト最初のオペラ。その導入曲をここでもシンフォニーとして演奏しています。
3分弱のあっという間でありますが、強弱の入れ替わり、喜ばしい表現などに初期のモーツァルトのエッセンスが凝縮された音楽といえます。
★★★


・交響曲 ニ長調 K.100(K.62a)
 (セレナード第1番 ニ長調 K.100~第2、6~9楽章)

この作品もホグウッド流の解釈によりセレナード(モーツァルト自身はこの曲を「カッサシオン」とよんでいます)楽章を抜き出して交響曲としています。
力強い第1楽章、弦の細かい動きに躍動感があります。第3楽章のピチカートにのせて2本のフルートが吹く美しいメロディーはヴェールをまとった美女ふたりが優雅に踊っているような劇用の曲のようです。後にパリ旅行の時に書かれたバレエ音楽「レ・プティ・リアン」が連想されました。
メヌエットが第2・4楽章にあり、いかにもセレナードから編曲した多楽章になっています。
終楽章はトランペットがけたたましく鳴って祝典的な雰囲気を盛り上げます。
★★★


・交響曲 第9番 ハ長調 K.73

作曲年が研究者によってまちまちな作品。自筆譜にはレオポルド・モーツァルトの筆跡と思われる「1769年」という数字が書き込まれているそうですが、有名なモーツァルト研究家たち―サン=フォア、ヴィゼワやアインシュタインはその作風から1771年と推定しました。現在では1769年で落ち着いているようです―編成にはトランペット、ティンパニ、持ち替えでフルート2本を含み、4楽章からなる、この頃の作品としては大きいほうになる編成です。
オペラの序曲を思わせるようなイタリア風の推進力に溢れた第1楽章。
第2楽章では弦楽合奏に伴われてフルートが吹く穏やかで気品あるメロディーにウットリきき惚れます。第3楽章のメヌエットのトリオは弦楽器だけで弾かれるので、管楽器でも加わってくれれば・・・と思ってしまう。
終楽章プレストは炎のようになって目の前を駆け抜けていくようです。
★★★


・交響曲 ニ短調 K118(74c) 「救われたベトゥーリア」序曲

1771年に作曲された宗教劇の序曲をシンフォニーとして収録したものです。大軍によって包囲された都市ベトゥリーアがジュディッタという女性の知恵のある行動によって救われるストーリーです。
宗教曲ということを意識してかニ短調という調性を使い、厳かな作品にしようとしているように感じられます。中間部は危機迫るベトゥーリアの町といった不安や悲しみを表しているようにもきこえます。
★★★


・交響曲 ヘ長調 K75

モーツァルトの自筆譜が確認されないので偽作説もある作品です。作曲時期としては前の「救われたベトゥーリア」と同年、1771年頃にザルツブルクで書かれたとされる4楽章形式のシンフォニーです。
第1楽章ではオーボエとかホルンといった管楽器に多少目立つ場面が与えられていて変化がみられます。
第2楽章、ここでメヌエット楽章になります。トリオでは弦楽器がソロになってまさに、ヴァイオリン、チェロとチェンバロによるトリオ・ソナタ風といった趣になります。
第3楽章ではオーボエが活躍するフレーズが与えられています。歌うような旋律は「モーツァルトらしさ」を感じることができます。
終楽章は音楽の流れというか間合いの取り方に余裕があって作曲者が自信を持って曲を書いているように思われます。
★★★


・交響曲第12番 ト長調 K.110(K75b)

前のK.75のシンフォニーと同時期に書かれたといわれている作品で、イタリアでは「速い―遅い―速い」の3楽章で書いて、ザルツブルクに帰ってくるとメヌエットを含む4楽章のシンフォニーを書き、その作風もイタリア風とオーストリア風の両方が感じられる作品になっているのがこの時期のモーツァルトの特徴的なところであると思います。
第1楽章の流麗なメロディーからもモーツァルトをしっかり感じ取ることができます。管楽器にもしだいに独自性が与えられつつあります。2つのテーマも素晴らしくてここにきて一気に腕を挙げつつあることが分かります。
第2楽章、オーボエとホルンが休みの代わりにフルートとファゴットが登場、それにより音の響きに今までにないアクセントが加わって新鮮な響きです!
第3楽章メヌエット&トリオは各フレーズがカノン風というかこだまのように幾重にもきこえてくる音が印象的です。
第4楽章でもメヌエット楽章と同様なことがいえ、そこに風格まで感じられる音楽になっているモーツァルト15歳の作品。
★★★★★

【演奏メモ】
交響曲 ニ長調 K.100(K.62a)や第9番などの緩徐楽章におけるフルートのしなやかな響き、過度に鳴らしすぎない管楽器など落ち着いて今回も落ち着いてきける演奏でした。

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