今週の1曲(32)~ブラームス:セレナード第1番

新年最初の1曲はあまり肩ヒジ張ったものではないブラームス最初の管弦楽作品、
セレナード第1番 ニ長調 作品11です。

1857年、北ドイツの街、デトモルトの宮廷に赴任して間もなく、弦と管楽器のための九重奏曲として書き上げ、その後1859年にフルオーケストラ用に改作されました。

ブラームスとしてはかなり力を入れて編曲し直したようで九重奏曲版はきいた事がありませんが、明らかに大編成に書き直すにあたりセレナードというのは名前だけで、ダイナミックなシンフォニーに近いものになっています。いずれは交響曲を書くための経験ということを考えてのことでしょう。

第1楽章 アレグロ・モルト 朝もやのような弦楽器が刻むリズムの中からホルンによる第1テーマがローローと鳴り響いてきて、管楽器に受け継がれていき喜びや期待に満ちたような雰囲気になりますが、でも真面目なブラームス。それらの素材を使ってガッチリとソナタ形式で楽章構築をしていきます。その堂々とした響きをきいていると「今年もガンバルか!!」と奮起するような気分にさせられます。コーダにはゆったりとした余韻があって緊張感が解かれます。

第2楽章 この作品の中でひとつだけ短調のスケルツォ。躍動感よりも、物思いにひたって考え込むブラームスの姿が浮かんでくるような暗さがあります。

第3楽章 アダージョ・ノン・トロッポは唯一の緩徐楽章で作品の中軸となる音楽といえるでしょう。鳥の声や風の音、狩猟ホルンや牧童のフルートが鳴り響いてくる広々とした田園風景が浮かんでくるようなメロディーが15分近く続くと知らないうちにウトウトしてきます。

第4楽章 バロック時代へのパロディとも慈しみとも思えるようなものが伝わってくるメヌエット。また、第3番交響曲の第3楽章に共通した哀愁みたいなもの、同じニ長調による第2番交響曲と似た空気がここだけでなく全曲に通っています。

第5楽章 ホルンが堂々と響く武骨なスケルツォ。きっとこの基になっているのはベートーヴェンのシンフォニーのスケルツォにルーツがあると感じられることでしょう。

第6楽章 ロンド・アレグロの終楽章は活発なリズムがたくましさを与えます。第2主題でここにきてはじめてセレナード風な楽想がきけます。またホルンが目立って吹きまくっていてブラームスのホルン好み!?が反映されています。

ブラームスのオーケストラ作品といえばもっぱら4曲のシンフォニーにハイドンの主題による変奏曲、悲劇的と大学祝典のふたつの序曲が録音、演奏頻度、楽曲解説でも登場しますが、このセレナードと次に書かれたもう1曲のセレナードは初期の習作扱いにされてスルーされてしまうことが多いですが、それではもったいない作品に思われ、後の交響曲にきかれる萌芽があると感じます。

《Disc》
クラウディオ・アバドベルリン・フィルの常任になる前に録音しているディスクを愛聴してきましたが、今回は1929年にハンガリー生まれ1973年に43歳の若さでイスラエル亡くなった指揮者、イシュトヴァン・ケルテスロンドン交響楽団の首席指揮者を務めていた1967年に録音したディスクをオススメします。


颯爽と早めのテンポで青春の感情が湧き上がってくるような第1楽章ではアグレッシブに、第3楽章の柔らかなところなどケルテスの才能を感じていただければ。
ティンパニの音がスパイスのようになって曲をシンフォニック的に響かせて―セレナードというよりもシンフォニーへ通じる作品ということを意識させられます―またケルテスはウィーン・フィルと素晴らしい交響曲の録音も残していることを思い出しました。終楽章冒頭の第2ヴァイオリンが左から右側の第1ヴァイオリンへの掛け合いなど、ステレオ効果を意識した音つくりも印象的です。

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