モーツァルト;交響曲全集完聴記(その10)

ホグウッド、シュレーダー&アカデミー・オブ・エンシェント・ミュージックによるモーツァルトの交響曲全集の完聴記、今週は初期交響曲の傑作で皆さんにもよくきかれている第25番ト短調と第29番イ長調の2曲をきいていきます。

CD8

交響曲 第25番 ト短調 K.183(K.173dB)

同じくト短調にしてモーツァルトのシンフォニーの最高傑作のひとつといわれる第40番に対して「小ト短調」と呼ばれることもあるこの第25番。作曲されたのは1773年。このところきいてきた第21番から27番といった同じ時期に連続して書かれたシンフォニー群がどちらかといえばイタリア風の明るく音楽の流れの豊かさがあるものに対して、マイナーコードであることと、熱い感情表現が前面に出てきているひと際目立つ作品であります。
ただモーツァルト本人はそんなに深刻に考えていたわけではなく、当時流行していた芸術運動「シュトルム・ウント・ドランク」の感じのシンフォニーも書いてみようというノリだったかもしれませんが・・・。
編成はこんなにも緊迫感と悲壮感があるのにいたってシンプルで、オーボエとファゴットが各2本、ホルンが4本に弦楽というものです。
第1楽章ではシンコペーションが効果的に使われドラマティクに展開していきます。弦楽器が激しく動き、崩れそうになるのを他の弦楽器が止めるなど手の込んだ技法がきかれます。
私は以前この第1楽章を吹雪の中を車で走っている時きいて「なんとシュチュエーションマッチしているんだろう!」と驚きがあったことを思い出します(雪道の運転は嫌ですが。。。)
第2楽章アンダンテはそんな吹雪の夜に、暖炉のある部屋で明かりはその暖炉の炎のみという暗い、でもほのかな温もりの中でひと時の休息を取っている気がします。前の楽章からの余韻が漂い、これから先への不安といったものを抱えているみたいで本当の安らぎは感じられません。
第3楽章、笑顔の無いメヌエット。第40番のメヌエットへと通じているようにも思われます。トリオは管楽器によるアンサンブルが一息つかせてくれます。
メヌエットのメロディーを受け継ぐようにして開始される終楽章。若い情熱がほとばしっているような音楽で、例えば趣はちょっと違いますがピアノ・コンチェルト第9番「ジュノム」の終楽章みたいに熱い爆発の炎が燃えさかっています。先入観もあるのですがモーツァルトが果てないさすらいの旅へ馬車に乗って出かけていく虚しさが伝わってくるようです。それを4本のホルンのいななきが助長します。
★★★★★


交響曲 第29番 イ長調 K.201(K.186a)

1774年に3度めのウィーン旅行から故郷ザルツブルクで完成させたシンフォニー。これもだ第25番と初期交響曲の双璧をなす傑作といわれてきています。
第25番が寒い冬の中の歩みなら、こちらは春のやさしいそよ風の中を鼻歌交じりにスキップしているような音楽。
編成はとっても小さくて弦楽に管(オーボエ、ホルン各2本)が付くだけ。でもその編成をとてもよく生かしていて第1楽章の清らかで透きとおった音楽、そして動きのある展開部、転調やフーガ風の動きなど古典音楽におけるベストコンデションのサンプルをきいているように思います。
第2楽章は弱音器を付けたヴァイオリンの響きがとってもしなやかでウットリきき惚れてしまう安らぎと静けさを持っていながらも室内楽のような緻密な構成力をもっています。またオーボエ、ホルンのメロディーに対して弦楽器が応える所はシンフォニックなつくりだと思います。
第3楽章、付点音符付のリズムがこのメヌエットを躍動感と活力を与えてくれます。トリオのおだやかなメロディーは激しさの感じられるメヌエットとの対比が図られています。
終楽章は初期シンフォニーによくきかれる強弱とダイナミックが青春のパワーの発散や興奮といった印象を受けます。このインパクトは当時の人たちにはかなり刺激が強いものっだということは間違いないと思います。
★★★★★

【演奏メモ】
第25番第1楽章のオーボエソロの哀しげで悲痛に満ちた響きが耳に残ります。でも、このシンフォニーから悲壮感だけでなく恐れとか怯えみたいなものまで引き出しているアーノンクールのものと比べるとかなり微温的な感じもします。
しかし、終楽章の込み入った構造もオーケストラが小編成ということもありますがクッキリと整理して冷静にききてに伝えてくれます。
第29番メヌエットは若々しい弾む感じのリズムの特徴がとてもよく表現されています。また、終楽章のホルンに力が入っていて休止するときタメをつけるなどホグウッドにしては(!?)個性を主張しているように思います。ただここでもは優雅さだけでなく激しさという面も引き出していたベームの演奏と比べてしまいました。

両曲とも小編成の良さを発揮して弦楽器内の動きや、管楽器も弦楽器の中からしっかり浮かび上がって色々なモチーフがきこえてくるので得した気分(?)になります。

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