モーツァルト:交響曲全集完聴記(その15)

今週はモーツァルトのホグウッド&シュレーダー、アカデミー・オブ・エンシェント・ミュージックによる交響曲全集の完聴記の15回目、後期六大交響曲ともいわれる最初の第35番「ハフナー」&第36番「リンツ」をききたいと思います。

CD13

交響曲 第35番 ニ長調 K.385「ハフナー」 (第1稿)

最初に「第1稿」??「ハフナー交響曲」にそんなにヴァージョンがあったことはこの全集をきくまで知らず、「ハフナー交響曲」といえばあの「ハフナー交響曲」でしょう!と思ったら、皆さんご存じの通りこのシンフォニーはザルツブルクの名家ハフナーさんの貴族就任を祝って書かれたセレナードが原曲になっていて、その状態を復元ししてみました的発想で編成からフルートとクラリネットを外して、入場用として作曲されたK.408-2(385a)のマーチを演奏してから交響曲へ入っていく形をとっています。
当然、フルートとクラリネットが無い分”あれっ?”と感じる響きで厚いゴージャスな音をききなれた耳には不思議にきこえます。第2・3楽章には元からお休みなので問題ないのですが、ダイナミックな音が要求される両端楽章ではやっぱり物足りないような気がします。
でも、終楽章の表現力の大きさはモーツァルトの充実ぶりがきこえてきて、いつきいても心が躍ります。
★★★★☆


交響曲 第36番 ハ長調 K.425 「リンツ」

第1楽章アダージョの序奏、少し影があって後の短調作品にも通じるデモーニッシュなものを一瞬受けることがあります。アレグロ・スピリトーソの主部に移り、モーツァルトらしい流れていく様な音楽―それがただきき流されるだけでなく、耳にしっかり入ってきます。
第2楽章はささやきかけてくるような優しさがあるのですが、当時の交響曲の緩徐楽章としては珍しくトランペットとティンパニが入るので重厚感があります。
第3楽章のメヌエットでのトランペットのファンファーレが遠くの城壁から響いてくるような情景が浮かんできます。
終楽章はリズミカルで活発な音楽なのですが、弦だけで繋いだり、弦と管で静かに繋いで次にフォルテで全楽器が加わるみたいな綱渡りをみているようなスリリングな橋渡しと、その落差が楽しいです。奏者にしたら自分が失敗したら流れがストップして台無しになってしまうというストレスの中で演奏しなければならないでしょうが・・・。
編成にフルート、クラリネットを含まないので渋い曲になっているものの、シンフォニーの王道ともいえる重厚な序奏部、長調、短調の配合具合、第2楽章ではほんの少しロマンティックなところがあったりして、とても旅の途中で寄ったリンツで貴族より注文を受けてその滞在中の数日(4日間といわれます)のうちに書き上げられたとは考えられないきき応えある交響曲。
★★★★★


CD14

交響曲 第35番 ニ長調 K.385 「ハフナー」 (第2稿)

こちらがフルート、クラリネットが加わった一般に演奏される方です。
回りの目を気にせず闊歩しているような堂々とした存在感。まだこの演奏ではきいていませんが第31番「パリ」交響曲もやっぱり堂々としていますが、こちらの方がもっと進化して飛躍力、フーガの扱いなど手の込んだ作品になっています。
第2楽章、原曲がセレナードにあるためシンプルなものですが、いつきいても素敵なメロディーです。
第3楽章、ダイナミックで強弱の振り幅の大きいメヌエット。たくましい男性的な部分としなやかなトリオの対比が際立っています。
第4楽章、セレナードらしく華々しくドラマテックな音楽でこれからオペラが開幕しそうな空気になります。フォルテの力強さが激しくて当時のききても歓喜した事でしょう。
★★★★★



【演奏メモ】

「ハフナー」交響曲(第1稿)ではフルート、クラリネットが無く、オリジナル楽器ということもあって、洗顔をしてまだ化粧をしていない若い女性みたいな印象を受けました。
第3楽章メヌエットは幾分ゆっくりで、雅にドレスの裾がヒラヒラと揺れているのを表現しているような感じにきこえてきます。

「リンツ」交響曲の第1楽章アダージョの序奏部ではくすんだ響きがより陰影を与えていているので、この曲からマイナーコードを想像させる響きをきけたという発見がありました。
快速派ホグウッドも急緩をつけて演奏しているのでとても立派なシンフォニーとして立ち上がってきて、すべてのリピート指示に従っているので35分を超える演奏時間になっています!
第2楽章の第5、7小節はティンパニがフォルテ、他の楽器はフォルツァンド(第70、72小節でも)によりティンパニが目立つように書かれているのですが、ここではその指示をきちんと守っているのでモーツァルトが緩徐楽章でティンパニを用いた意図を成功させています。

「ハフナー」交響曲(第2稿)この作品は結構速いテンポで激しく演奏しないと面白くないのですが、そこは良識派のホグウッド、終楽章などの速い箇所では弦楽器や管楽器の音のぶつかり合う所を多少は表現していますが全体的にはフレッシャーズスーツを着た新成人のような仕上げです。

この頃のシンフォニーになると弦楽器の数も増やしているようで、ホグウッドの弾いている通奏低音(チェンバロ)がほとんどきこえず埋没してきて、メヌエット楽章でやっときこえてくる程度になっています。

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