モーツァルト:交響曲全集完聴記(その13)

ホグウッドとシュレーダーの共同リード、アカデミー・オブ・エンシェント・ミュージックによるモーツァルトの交響曲全集企画の完聴記、今週は第13回になりました。

CD11

・シンフォニア  ハ長調 
  歌劇「羊飼いの王様(牧人の王」序曲 K.208(K.102+K.203C)

1775年にザルツブルク初演されたオペラの序曲にアリアとフィナーレを加えてシンフォニーの体で演奏している曲です。
冒頭の和音からリズム感がとっても良くてヨーゼフ・ハイドンのシンフォニーみたいです。中間部のホルンのメロディーもハイドン風です。フィナーレも躍動感があります。
★★☆

・シンフォニー  ニ長調  K.250(K.248b) 
   セレナード第7番「ハフナー・セレナード」の交響曲稿

1786年に作曲されたこのジャンルでの傑作といわれるセレナードで、第1楽章、第5,7,8楽章を抜き出してシンフォニーとして演奏しています。また、他の第2,3,4楽章はヴァイオリン・コンチェルトとしても演奏できるようになっている一粒で二度おいしいセレナードなのです。
第1楽章、ザルツブルクの名門ハフナー家の結婚式用に書かれた音楽であることから、大規模な編成でシンフォニックで重厚なものでありながらも深刻にはなっていません。
第2楽章、メヌエット、ガランテ&トリオ ガランテ=粋な、洒落た、とかの意味で、モーツァルトにしては珍しい表現ではないでしょうか?確かに雅で貴族たちがお上品にダンスをしているみたいです。
第3楽章アンダンテは優雅な貴婦人たちの立ち振る舞いを見るようにきき惚れてしまうきれいな音楽です。ヴァリエーションになっていて、変化するたびにグラデーションがかかっていくようになっていき、木管楽器のソロがスーッと入ってきます。
第4楽章、メヌエットと2つのトリオ。ガッツリして堂々としたメヌエット。トリオではフルートの澄んだソロイスティックなメロディーが印象的です。トリオではトランペットが祝典的にファンファーレ風のモチーフを吹きますが、当時、相当の名手がいたであろうと思わせるものです(当然、この頃のトランペットには今みたいなバルブで音を調整出来ない楽器だったのですから)それか、モーツァルトか父親の友人、知人が楽団にいて、仕方なくトランペット嫌いのヴォルフガングも見せ場を作ってあげたのでしょうか?
終楽章は重々しく、アダージョの序奏がセレナードとは思えないほどです。主要部のアレグロ・アッサイも後期の後期の交響曲に匹敵するくらい長大で、ダイナミックな所とゆったりしたした所を持った、多様な音楽です。序奏部と主要部を持ったこの楽章は恐らく同じ構成の第1楽章と対照をなしているようでよく考えられているように思います。
★★★★☆


・交響曲  第32番 ト長調  K.318

1779年9月にポツンとつくられたシンフォニー。急緩急の3つの楽章が続けて演奏される8分ほどの規模も小さい作品なので、昔から何らかのオペラとか劇のための序曲として書かれたのでは?といわれています。
第1楽章はトランペット、ティンパニを含む編成で堂々とした始まりは確かに劇音楽の序曲を思わせます。
第2楽章はこの短い交響曲中、一番のききどころといえる、これから後に書かれていく作品にもきかれる、冬の穏やかな日差しのような明るさと影が見事に表現される音楽がきこえてきます。
終楽章は第1楽章の雰囲気が回帰してきて一気に駆け抜けていきます。
こうやって全曲を改めてきいてみるとやっぱり何らかの劇音楽として締切に追われながらもあっという間に仕上げた曲のように思います。もちろん作品の出来は上質なものとして。
★★★★


【演奏メモ】
「ハフナー・セレナード」からのシンフォニーニ長調の第1楽章では序奏部をゆっくり始め、j¥主要部に入ると加速していくメリハリのある演奏です。その第4楽章では先にも書いたようにトランペットが華々しく鳴るのですが、ナチュラル・トランペットの響きは現代楽器による演奏が他の楽器を蹴散らしてしまうのに比べて柔らかく楽器群から突出してくるのでうるさいという感じが緩和されます。

第32番は長くきいてきたのがカラヤン盤だったので、ここでの冒頭のしなやかなアクセンントとか各声部の細かい動きに驚きます。これをきくとカラヤン盤はキャデラックでブロードウェイに乗りつける香水臭く、宝飾品に身を飾り立てたセレブなモーツァルトを見るような違和感を覚えます。ホグウッドの演奏はずっと質素でありながらも音楽の構造をスッキリききてに提示してくれます。

このディスクの収録曲は第32番の除き、1775年作曲と1776年に作曲された作品からの改作シンフォニー。ホグウッドとしてはこの両年に純然としたシンフォニーが書かれていないのが残念でたまらなかったのか・・・あえてのひねり技で2曲を録音したのか?

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