インバル&都響によるマーラーの交響曲第9番

昨年3月東京芸術劇場で生演奏をきいてきたエリアフ・インバル指揮による東京都交響楽団によるマーラーの交響曲第9番のライブ録音のディスクが発売されたのできいてみました(Octavia Records)



インバル&都響による「新・マーラー・ツィクルス」は毎回ディスクになってきたのですが、あまりにも高額(1枚約税込3,500円弱!)なのとあまり新譜を追いかけてきいていく習慣がないのでなかなか手が出ませんでした。しかし、今回せっかく実演をきいてきたのだから、あの圧倒的な印象をうけた体験をもう一度できるかな?と思いながら行きつけのディスクショップへ注文したのでした(ご店主いわくこのレーベルのディスクは買い取り制のため受注販売をしているそうです)

演奏は私がきいた東京芸術劇場のみだけでなく、翌日の横浜公演、その翌日のサントリー・ホールでの3公演からのテイクが使われている様ですが、もちろんそれがどれなのかはききわける耳は持ち合わせていませんが実演での記憶がよみがえってきました!

第1楽章の張りつめた空気からしだいに熱を帯びて、嘆きが描き出されていきます。インバルの演奏は気迫が込められていて―時々オーケストラを激励するような唸り声も入っていて、実演でもきこえていましたがマイクセッティング上からもこちらの方がリアルにきこえてきて、これが嫌だという方と、熱気が伝わってきていいという方がいるかも知れません。
マーラーがこのシンフォニーを書いていた時の心境まで伝えてくれるような息苦しくなるような緊張感があります。しかし、ただそういった感情表現ばっかし重視の演奏ではなくて、磨き上げられた金属的なツヤツヤして冷たい肌触りもあります。
感情表現をバリバリ出す演奏の代表といえばバーンスタインを筆頭にテンシュテットやベルティーニ、そしてシノーポリあたりがマーラー好きな方にはよく知られています。そして精緻な演奏といえばラトルやアバド、ブーレーズあたりが浮かびますが、インバルの演奏はそのどちらかに極端に傾くわけではなく両者のバランスが見事にとれていて、でも中途半端では決して無いのが
多くの方の支持を集めることになっているのではないでしょうか?
そういった面ではマーラーの作品が演奏会でも多く取り上げられるようになって40年から30年くらいのあいだ様々な解釈や演奏がなされてきた完成形といえるもので、現在きけるトップクラスのマーラー演奏ではないでしょうか?

インバルとしても以前のフランクフルトの放送交響楽団と全曲録音した時はやりたくても十分表現できなかったことや、自身の解釈の深化を東京都交響楽団が受け止め応えてくれてていることも大きいと思います。
東京都交響楽団の響きの美しさは恐ろしいくらいです!
例えば第4楽章の117小節から134小節にかけての何か救いを求めて手を伸ばすものの、掴み損なって転落していくような箇所でオーケストラの激しい動きから後は潮が引くようにして諦めていくように静けさを取り戻していくところは息をのみます。
そこを変化点として音楽は諦念的というか虚無的なものになっていってしますのですが、演奏はそこに会場の空気も一体となってかぐんぐん緊張感が高まって、一本のクモの糸が切れるか切れないかのピンと張りつめた空間が広がり終末に向かっていきます。

本当に以前のコンサートをきいた時にブログにも書きましたが、こんなマーラーをきけるのは人生でもう無いのではないかと思える瞬間です。それが追体験できたのが喜びです。
録音もリアルで驚くほどのインパクトを残したシンバルの音!や空気に消えていってしましそうな超弱音なども再現されています。
マーラーのシンフォニーはこれでもかと楽器を盛って、初演当時から騒音とカリカチュアされたくらいの大音響でききてを圧倒したと言われることを思い出します。第9番は他のシンフォニーに比べれば鳴り物が少ない方ですので第3番とか第6番・第7番あたりはどういった録音なのか気になります。

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