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モーツァルト:交響曲全集完聴記(その11)

ホグウット=シュレーダー共同リード、アカデミー・オブ・エンシェント・オブ・ミュージックのモーツァルトの交響曲全集の試聴シリーズの第11回です。 CD9 交響曲 第30番 ニ長調 K.202(K.186b) 1773年から1774年にかけて次々と書かれたシンフォニー中の1曲です。 第1楽章、ファンファーレのようにして始められる祝典的なイタリア序曲のような音楽で、第25番や第29番をきいてきた耳には少し後退したように思いますが、何らかの祝典行事のための注文を受け仕事として書き上げたものかもしれません。でも、展開部ではイタリア趣味ではきかれないような対位法を使っていて進化があります。 第2楽章はモーツァルトにしては特別魅力のあるメロディーがあるわけではない、大人しい楽章。決して悪いわけではないのですが、イマイチインパクトに欠けてしまいます。 第3楽章のメヌエットも定石通りのもので、しかたなく「カッタルいな~」と思いながら注文仕事を片付けているモーツァルトの姿が浮かんできます。トリオでは室内楽的な親密さが、まさにトリオといった趣があります。 終楽章、追い立てるようなリズムが印象的で「ワッショイ!、ワッショイ!!」と神輿を担いで騒いでいるみたいで落ち着かないです。ここでも祝典的にしたいのかメロディーよりも同じリズムで押し切り、終止部もフト終わってしまうのであっけなくて満足感が無いシンフォニー。書いていたモーツァルト本人も完成させてホッとしたのではないでしょうか? ★★☆ シンフォニー ニ長調 K.203(K189b) 1774年に書かれたセレナード第4番の全8楽章から4つの楽章を抜き出してシンフォニーとして演奏しています。編成はフルート、オーボエ、ファゴット、ホルン、トランペット各2本にティンパニ、弦楽合奏という大所帯で屋外の祝典行事作品でしょうか? 第1楽章、アンダンテ・マエストーソの短い序奏に続き、アレグロ・アッサイの主部が始まります。 第2楽章―セレナードの第6楽章。弱音器をつけた弦楽器の伴奏のもとでオーボエ・ソロが吹くメロディーがとっても素敵で印象に残ります。セレナードの緩徐楽章のため陰鬱なものでなくてまさに「夜の音楽」といった雰囲気をもつものです。 第3楽章―セレナードの第7楽章。トランペット、ティンパニが加わって武骨に奏される

モーツァルト;交響曲全集完聴記(その10)

ホグウッド、シュレーダー&アカデミー・オブ・エンシェント・ミュージックによるモーツァルトの交響曲全集の完聴記、今週は初期交響曲の傑作で皆さんにもよくきかれている第25番ト短調と第29番イ長調の2曲をきいていきます。 CD8 交響曲 第25番 ト短調 K.183(K.173dB) 同じくト短調にしてモーツァルトのシンフォニーの最高傑作のひとつといわれる第40番に対して「小ト短調」と呼ばれることもあるこの第25番。作曲されたのは1773年。このところきいてきた第21番から27番といった同じ時期に連続して書かれたシンフォニー群がどちらかといえばイタリア風の明るく音楽の流れの豊かさがあるものに対して、マイナーコードであることと、熱い感情表現が前面に出てきているひと際目立つ作品であります。 ただモーツァルト本人はそんなに深刻に考えていたわけではなく、当時流行していた芸術運動「シュトルム・ウント・ドランク」の感じのシンフォニーも書いてみようというノリだったかもしれませんが・・・。 編成はこんなにも緊迫感と悲壮感があるのにいたってシンプルで、オーボエとファゴットが各2本、ホルンが4本に弦楽というものです。 第1楽章ではシンコペーションが効果的に使われドラマティクに展開していきます。弦楽器が激しく動き、崩れそうになるのを他の弦楽器が止めるなど手の込んだ技法がきかれます。 私は以前この第1楽章を吹雪の中を車で走っている時きいて「なんとシュチュエーションマッチしているんだろう!」と驚きがあったことを思い出します(雪道の運転は嫌ですが。。。) 第2楽章アンダンテはそんな吹雪の夜に、暖炉のある部屋で明かりはその暖炉の炎のみという暗い、でもほのかな温もりの中でひと時の休息を取っている気がします。前の楽章からの余韻が漂い、これから先への不安といったものを抱えているみたいで本当の安らぎは感じられません。 第3楽章、笑顔の無いメヌエット。第40番のメヌエットへと通じているようにも思われます。トリオは管楽器によるアンサンブルが一息つかせてくれます。 メヌエットのメロディーを受け継ぐようにして開始される終楽章。若い情熱がほとばしっているような音楽で、例えば趣はちょっと違いますがピアノ・コンチェルト第9番「ジュノム」の終楽章みたいに熱い爆発の炎が燃えさかっています。先入観もある

モーツァルト:交響曲全集完聴記(その9)

今週はモーツァルトのホグウッド&シュレーダー、アカデミー・オブ・エンシェント・ミュージックによる交響曲全集の完聴記の9回目、1773年に書かれたシンフォニーをきいていきたいと思います。 CD7 ・交響曲 第26番 変ホ長調K.184(K.161a) 休止なく3つの楽章が続けて演奏される8分程のシンフォニーで、内容も編成にもフルートとオーボエが各2本にトランペット2本も加わるので劇場作品のための曲のように思われます。流れが滞留することなくモーツァルトらしい絵葉書の裏に描かれた気の利いた絵を見ているようです。 ★★☆ ・交響曲 第27番 ト長調 K199(K.161b) このシンフォニーも全3楽章から成り、こうやってまとめてきいてくるとこの頃のモーツァルトはウィーン風のメヌエット付の4楽章形式で書いてみたり、イタリア風序曲の急緩急の3楽章でみたり、その時々のTPOに合せて仕事をしながら試行錯誤を繰り返した様子がきこえてくるような気がします。 編成は前の曲と比べるとはるかに小さく弦楽器にフルートとホルンが各2本入るだけです。 第1楽章アレグロはさわやかな流れるようなメロディー・ラインがディヴェルティメント的です。第2楽章アンダンテは弱音器をつけたヴァイオリンがアリアのような抒情的なメロディーが歌い他の弦楽器が場ピチカートで支えます。ガヴォットみたいなリズムがエレガンスで、少しロマンティックで、ウットリきき惚れてしまいます。 終楽章プレスト。フーガにより堂々と締めくくられていきます。立体的な造形は後の「ジュピター」シンフォニーに進化していく予感を伝えます。 ★★★☆ ・交響曲 第22番 ハ長調 K.162 この曲も3楽章ですがトランペットが編成に入り、第1楽章からイタリア風序曲を思わせるリズムと軽快さがあります。イタリア旅行から帰って間もなく書かれたといわれ、モーツァルトがより学習しているなぁ~と感じます。 アンダンティーノ・グラツィオーソの第2楽章はふたつの楽章の繋ぐ間奏曲風なものです。 終楽章はバロック時代の特徴的なリズムが印象的でそれに気を取られている間に終わってしまうトータル8分位の演奏時間です。 ★★★ ・交響曲 第23番 ニ長調 K.181(K.162b) やっぱり第23番も急緩急の3楽章が続けて演

今週の1曲(32)~ブラームス:セレナード第1番

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新年最初の1曲はあまり肩ヒジ張ったものではない ブラームス 最初の管弦楽作品、 セレナード第1番 ニ長調 作品11 です。 1857年、北ドイツの街、デトモルトの宮廷に赴任して間もなく、弦と管楽器のための九重奏曲として書き上げ、その後1859年にフルオーケストラ用に改作されました。 ブラームスとしてはかなり力を入れて編曲し直したようで九重奏曲版はきいた事がありませんが、明らかに大編成に書き直すにあたりセレナードというのは名前だけで、ダイナミックなシンフォニーに近いものになっています。いずれは交響曲を書くための経験ということを考えてのことでしょう。 第1楽章 アレグロ・モルト 朝もやのような弦楽器が刻むリズムの中からホルンによる第1テーマがローローと鳴り響いてきて、管楽器に受け継がれていき喜びや期待に満ちたような雰囲気になりますが、でも真面目なブラームス。それらの素材を使ってガッチリとソナタ形式で楽章構築をしていきます。その堂々とした響きをきいていると「今年もガンバルか!!」と奮起するような気分にさせられます。コーダにはゆったりとした余韻があって緊張感が解かれます。 第2楽章 この作品の中でひとつだけ短調のスケルツォ。躍動感よりも、物思いにひたって考え込むブラームスの姿が浮かんでくるような暗さがあります。 第3楽章 アダージョ・ノン・トロッポは唯一の緩徐楽章で作品の中軸となる音楽といえるでしょう。鳥の声や風の音、狩猟ホルンや牧童のフルートが鳴り響いてくる広々とした田園風景が浮かんでくるようなメロディーが15分近く続くと知らないうちにウトウトしてきます。 第4楽章 バロック時代へのパロディとも慈しみとも思えるようなものが伝わってくるメヌエット。また、第3番交響曲の第3楽章に共通した哀愁みたいなもの、同じニ長調による第2番交響曲と似た空気がここだけでなく全曲に通っています。 第5楽章 ホルンが堂々と響く武骨なスケルツォ。きっとこの基になっているのはベートーヴェンのシンフォニーのスケルツォにルーツがあると感じられることでしょう。 第6楽章 ロンド・アレグロの終楽章は活発なリズムがたくましさを与えます。第2主題でここにきてはじめてセレナード風な楽想がきけます。またホルンが目立って吹きまくっていてブラームスのホルン好み!?が反映されています。

年末棚ざらえ~2014年にきいたディスクから

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今週は12月最終週ですので2014年にきいたディスクからこのブログで紹介しきれなかったものを取り上げつつ今年を振り返りたいと思います。 ⊡J.S.バッハ:フーガの技法    ピアノ:アンジェラ・ヒューイット バッハの最高傑作のひとつといわれながらも曲順・構成、作曲年代、果ては演奏する楽器指定もない謎々だらけで、この作品を手掛けるのは演奏家にとってもかなり手強く、またやりがいのある仕事であることは間違いないと思いますが、バッハの鍵盤楽器による作品をたくさん弾いてきたカナダ出身のピアニスト、ヒューイットがいよいよこの曲を録音しました。   さすがに今までバッハの作品を弾いてきただけあって、ポリフォニックな旋律の動きに精緻な表現と、作品に必要なものを全て兼ね備えた演奏です。しかも、近年流行の学究的な方向へ傾斜せずに知性的で品位、そして数々の舞台に立ってきた経験値が結合して「ヒューイットのバッハ」として作品をきかせてくれます。 そう思いながらきいていると、確かにその通りと納得して感心したり、ムム??そうなるの?と疑問に思ったり、あまりにもロマンティックすぎやしないかしら?と戸惑ったり、後半にかけて―ヒューイットはBWV番号順にコンプラプクントゥス1~13、4曲のカノン、コンプラプクントゥス14という順に、ただしBWV.18「2台のクラヴィーアのためのカノン」は除き弾いています―曲が難しくなっていっても「この曲はこんなに難解ですよ!」という演奏者の叫び?悲痛?がきこえてくるわけではなく、淡々と曲が進んでいきます。そういった解釈によりかえって邪魔にならずに、このとても長くて超難解な作品をきき通すのに役立っていると思います。 ⊡ ハイドン:弦楽四重奏曲集    「太陽四重奏曲 」 Op.20(全曲)    「ロシア四重奏曲」 Op.33(全曲)    「十字架上のキリストの最後の7つの言葉」 Op.51    「第2トスト四重奏曲」 Op.64(全曲)    「エルデーディ四重奏曲 」 Op.76(全曲)    「ロプコヴィツ四重奏曲」 Op.77(全曲)    演奏:モザイク弦楽四重奏団 新しい録音ではありませんが、1985年にウィーン・コンツェントゥス・ムジクスのメンバーにより結成されたモザイク弦楽四重奏団、

モーツァルト:交響曲全集完聴記(その8)

ホグウッド/シュレーダー&アカデミー・オブ・エンシェントミュージックのモーツァルトの交響曲全集の完聴シリーズの第8回めです。 CD6 交響曲 第20番 ニ長調 K.133 第1楽章から颯爽として表現豊かな音楽です。朝の目覚めの清々しさ―「いっちょ今日もやってやるぞ!」という気分にさせてくれて、生命力・自身がわいてきます。 第2楽章、弦楽器にフルートのオブリガートという特徴的なもので、とても印象的な柔らかな肌触りの音楽になっています。 第3楽章は定石通りのメヌエットになっているのですが、きき所はトリオのひなびた音楽で、田舎の楽師たちが村の一隅で演奏しているようなユーモア感が伝わってきます。手回しオルガン=ハーディ・ガーディを模したようなメロディーもきこえてきます。 終楽章はしっかりと書き込まれ堂々とした存在感があります。初期のシンフォニーをきいていた時として感じた「やっとここまで書き上げた」という仕事としての音楽ではなくて、心から湧き出て来たように感じられる楽想が心地よいです。 弦楽器の陰で様々なフレーズを管楽器に与えているところは後のシンフォニーを思わせます。 ★★★★ 交響曲 第21番 イ長調 K.134 楽器編成がオーボエでなく、フルートが入っているせいか柔らかな耳触りで膨らんでいく様な感じでとてもポエジーな音楽です。第2楽章はアンダンテでありながら弦楽器が細かく躍動的な動きをきかせる低~中声部に対して、オペラティックなメロディーを奏するヴァイオリンとフルートという対象が面白いです―短いですが展開部もドラマティックです。 明朗なメヌエット、ただしここでもきき所はトリオの部分で、ききての耳を引き付ける仕掛けを行ってくれます。 終楽章は推進力があり、ユーモラスで喜びに溢れて、また劇的な所も持っている多様さがある音楽です。 ★★★☆ シンフォニア ニ長調 「ルチオ・シルラ」K.135 序曲 ここでも1772年12月、ミラノで初演されたオペラの序曲をシンフォニーとして演奏しています。 急―緩―急の典型的な当時のイタリア序曲のスタイルで、堂々とした第1楽章、穏やかな第2楽章、燃え上がる炎のような終楽章といった構成で劇への期待感を膨らませるものです。 ★★☆ シンフォニア ニ長調 K.161/K.163/K.141a

モーツァルト:交響曲全集完聴記(その7)

今週もホグウッドのモーツァルト交響曲完聴シリーズの7回めです。 CD5 交響曲第18番 ヘ長調 K.130 前にきいた第16番と第17番の交響曲と同様に1772年5月に作曲されたといわれています。3楽章形式だった前2曲に対してメヌエット&トリオを加えた4楽章からなり、楽器編成もオーボエからフルート2本にかわり、ホルンも4本に増えています。 編成の拡大に伴い音楽の構造も深化しています。それはちょうどこの年に4月にザルツブルクの大司教にコロレド―モーツァルトの伝記では必ずと言ってほど悪人として描かれている人物ですが―が就任していて、モーツァルトとしては新大司教に自身の才能を見せたいという意図が感じられてくるようなシンフォニーです。 大人しいイメージの第2楽章アンダンテ・グラツィオーソでは2本のフルートと4本のホルンで響くので優美さとたくましさが同居したような音楽になっています。 メヌエットも短いながらもブルックナーを思わせるリズムが印象的な所です。 終楽章は弦楽器と管楽器が見事な対比をきかせてくれます。どことなく音楽の運び方が、クリスティアン・バッハやマンハイム楽派と呼ばれるシュターミッツなどの影響が復活しているみたいです。でも、決して後退ではなくて音楽が素晴らしいものになっています。 ★★★★ 交響曲第19番 変ホ長調 K.132 この曲もフルートがオーボエに変わっただけで4本のホルンが含まれるのが特徴のシンフォニーです。まず驚くのは13年後に書かれる同じ調性の第22番K.482のピアノ・コンチェルトに似た第1楽章のテーマの登場です。 第2楽章はこれまでのシンフォニーに比べ格段に長大な緩徐楽章で、半音階的な動きでかなりロマンティックなもので、ここでは同じ変ホ長調の第39番のシンフォニーにつながっていく種がまかれているように思われ、モーツァルトの魅力が味わえます。 メヌエットでは4本のホルンが効果的に使われて充実した響きがきけます。トリオが宗教的な厳かな雰囲気を持っています。 終楽章は古風なバロック時代の舞曲を思わせる音楽に意表をつかれます。 ここで追加として本来このシンフォニーの第2楽章だったアンダンテ・グラツィオーソが収録されています。全体とのバランスを考えてかシンプルなものです。 ★★★☆ 交響曲 ニ長調 K.185